Ghetto

生と死(自殺問題を含め)について勉強し、生きづらさを解決や緩和させることを主な目的にしています

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書籍『荒野へ』

今回は『荒野へ』という本の紹介です。

 

 

荒野へ

荒野へとは1992年の夏、アラスカの荒野の針葉樹林に放置されていたバスの車内で亡くなっていた、永遠の旅人クリストファー・マッカンドレスの足取りを記録したノンフィクションです。

著者は登山家の間でも評価の高いジャーナリストのクラカワーです。

以前にもさっと紹介したことがありますけど、本書は米国の雑誌『アウトサイド』に寄稿された文章が基になっていて文庫版も出ています。

クリストファー・マッカンドレスは恵まれた境遇にいながら荒野に魅入られて夭逝し、全米を震撼させることになりました。しかし本書は、無軌道な若者や自由を求める心理を安易に賛美しているありふれた作品とは違います。

 

アラスカの話

2007年にはショーン・ペンが監督し、エミール・ハーシュ主演で『イントゥ・ザ・ワイルド』という映画にもなりました。

こちらは美しいアラスカの自然が満載で、俳優達の演技も含め世界的に高い評価を受けた作品ですけど、アコースティックな音楽とアラスカの自然が美しいです。

実話に基づいて映画化され、主人公の視点が主軸になっているこの種の作品をあまり観たことのない方には退屈に感じられる可能性がありますけど、サブカルチャーカウンターカルチャーをメインに扱っている雑誌『スペクテイター』の読者層であれば、楽しめると思います。

それから、僕は『スペクテイター』のアラスカの特集号が特に好きなのですけど、読みたい方は連絡いただければ貸しまっせ。...これは冗談。イタくてすみません。

さて、こちらの雑誌のアラスカの特集号も、アメリカ最北部の地で暮らし、文明社会とは距離を置きながら森の中で生活する住民達のレポートや美しいアラスカのグラフィックで埋め尽くされています。

最果ての地で、ひっそりと暮らす住民たち。

彼らのあっさりしていて気前の良い愛と善意が印象的です。

 

クリストファー・マッカンドレスの軌跡と心理

クリストファー・マッカンドレスは、ワシントンDCの郊外で育ち、学業とスポーツとも優秀で比較的恵まれた環境にあったそうですけど、1990年にエモリー大学を優等で卒業した直後に姿を消しています。

その後は、徒歩とヒッチハイクアメリカ中を放浪し、名前を変え、所持していた多額の現金を慈善団体へ寄付し、車や所有していた持ち物のほとんどを放棄していたそうです。

彼は社会の片隅で慎み深く暮らしていましたけど、新しい経験と真理を求めて雄大な自然に覆われたアラスカを放浪することを決意して北上します。ヒッチハイクで知り合った年配の友人のフランツとのやりとりなどからも繊細で感受性の高い精神の持ち主であったことが窺えます。

しかし、クラカワーの取材によれば彼は情熱的で理想が高い面もあったストイックな青年だったそうです。手前味噌ですけど、僕自身もBPをやっていたときに彼のような若者には沢山会ってきましたがやっぱり理想主義者が多かったですね。

クリストファー・マッカンドレスは、とりわけトルストイの著作に影響を受けていたそうですけど、特権的な生き方を放棄し、社会の片隅を彷徨していた孤独な作家の生き方には惹かれるところがあったのでしょう。

北方の自然や清浄な大気には生や死を想起させる要素がありますけど、彼もアラスカにクライマックスと自由を求めていました。

僕は場所を通して精神的な自由について考えさせられることがありますけど、昔からそうした心の仕組みがとても好きで、自分にとってのアラスカはどこかと考えたら僕のルーツにも関係している北海道だと思いました。

しかし、自由を求めることが北方につながるといった価値観があっても、対比されたところにある精神的な問題や不足についても突きつめて考える作業をしないと、そのアプローチは現実からの逃避としてのニュアンスが高くなりますから注意しなくてはいけません。

クリストファー・マッカンドレスの死因については、自殺説や有毒植物を食べたという説や餓死説など複数存在していますけど、真相は謎に包まれたままです。

この孤高の旅人は、最果ての地で息絶えるとき意識があったとしたら何を思っていたのだろう。


参考書籍

荒野へ (集英社文庫)

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